10月27日の衆議院選挙の結果、15年ぶりに与党が過半数割れになったことを受け、ネット上では「政権交代すると大地震が起きるジンクスがある」との都市伝説が流れたと側聞する。早速事実関係を確認してみると確かに、2011年3月11日に発生した東日本大震災(M9.0)の時は、菅直人元首相の民主党政権だった。そして1995年1月17日の阪神淡路大震災(M7.3)の時の首相は村山富市氏で、自民、社会、新党さきがけの三党連立政権だったのだが…。11月11日の国会の首班指名選挙で決選投票となりその結果、自公連立の第2次石破内閣が発足、少数与党ではあるが政権交代には至らなかった。災害の多い地理的条件に置かれている災害大国日本が、新政権のもとにあって大小を問わず災害の少なからんことを願うものである。
気が付けばもう師走。今年の十大ニュースは、どうなるか? 2024年を振りかえって様々な出来事が話題に上がる年の瀬を迎えた。アメリカでは11月5日の大統領選挙で、注目された6つすべての激戦州に勝利し、トランプ氏が47代大統領に選出された。またドジャースに移籍した大谷翔平は、今シーズン出場150試合目で大リーグ史上はじめての「50-50」を達成するなど、目覚ましい活躍で数々の記録を打ち立てた。
日本国内では、今年の元旦に発生した能登半島地震(M7.6)で、被災直後から自衛隊が災害派遣の要請を受け活動していたが、地震被害が甚大で広範囲に及んでいたことから、災害派遣活動は長期化し派遣期間は8月末までの244日間で、東日本大震災の174日を上回る地震災害では過去最長となり、派遣規模は隊員延べ約114万人、航空機延べ約4600機、艦艇延べ約350隻だった。
防災訓練士協会の活動を振り返ってみると、2024年は昨年に引き続き「防災訓練士を養成してBCPを作成する」という協会の基本コンセプトの普及に各地の企業団体を訪問し面談した。担当したI氏によると興味深いことの一つは、防災に対する認識・理解に地域的な温度差があるということであった。北海道では地域差は見られなかったが、東北、関東、東海、中国・四国では、太平洋に面した県は防災に関する関心・理解が高い傾向がみられたという。これは、東日本大震災の津波災害の記憶や南海トラフ地震に関する報道などの影響が大きいものと思われる。
一方、首都圏では地域による温度差は無く、業種によって多種多様であるとのことであった。例えば、アパートやマンションなど不動産管理会社は、入居者が安心して暮らせる「防災に強い安全な居住環境」を提供できるよう、防災対策を強化したいというニーズである。このためには、防災対策を管理会社と入居者が「何をするべきか?その分担はどうするか?」など、今後検討すべき課題が明らかとなった。また、ある学校法人では進路指導・就職支援の一環として、防災訓練士の資格を付与するのはどうか?就活に有利になるのでは?との提案もあった。このほかにも今後の課題は山積するばかりだが、全国行脚で各地を巡るのは、土地と出会い、人と出会い。そして「新たな世界への入り口」を発見する格好の機会であるともいえよう。
今年も昨年同様、BCPの作成とその見直しを基本に活動し、グループ企業のBCP作成とその事業所45か所の計画作成をお手伝いするとともに、防災訓練士35人を新たに養成することができた。また更に、年度の後半で特に重視して普及に努めたのは「防災訓練」である。BCPは作成したがそのままで訓練の機会がないのであれば、計画の実効性を検証することができず、災害発生時の対応はおぼつかないものとなる。BCPに基づき訓練することで計画の見直し・修正ができ、災害時にどう行動するかを理解できるようになるのである。訓練をやってみてわかった新たな発見とは…。
静岡県のある会社で、「津波警報が発令される地震災害のシナリオ」での避難訓練を提案し実施した。この時折角の訓練機会であることから、避難時に携行するリュックサックを参加者全員が、事前にそれぞれ準備してみてははどうかとの発案があった。当の会社では訓練参加者に対し、リュックサックは各人が好みのものを準備、基準となる入り組み品はリストを作成・提示し、その費用は会社の負担で購入するのは各人毎とした。
早速、用意したザックを背に集合し、避難指示が出たとの想定で避難訓練を開始し歩いているとき、参加者の中から「なぜ海に向かって歩くのか?」との疑問の声が出た。自治体の示した場所を避難先としてBCPに計画していたからだが、確かに津波がいつ来るか分からない中、海に向かうというのは不安な気持ちになる。これは計画を見ただけでは気が付かないことで、訓練で実際に体験して初めてわかることである。この教訓を受け、改めて避難所の安全性の検証を行うとともに、海とは反対の方向へ向かう避難場所とその経路を検討することとなった。
また、避難を開始すると業務を中断して全員が職場を離れることになるが、「来社中の顧客への対応(誘導)はどうするのか?」、「社屋の出入り口のカギは掛けるのか?」などの疑問がでた。さらには、業務が中断することについて、本社、親会社、グループ会社、取引先などへの「事前の連絡・通報はどうするのか?」「了承を得ずに避難して、もし津波が来なかったら、非難されるのではないか?」などの意見も聞かれた。今後は、拠点ごとに行う訓練をさらに拡大して本社を取り込んだ訓練へと発展させ、本社の決断(意思決定の在り方)などを検証することも必要であろう。
このように訓練の場で実際に行動して気づくことは少なくない。今回のケースでは、参加者から「実際に避難に際し携行するザックを作ろう!」の提言を採用し訓練したが、予期した以上にその成果の大きかったことには、シナリオを提案した当協会としても驚いたほどである。まさに「訓練は気づきの宝庫」であることを実証することで、2024年における当協会の活動成果として、ひとつ「足跡」を残すことができたと思う。
2024年12月10日
一般社団法人 防災訓練士協会
代表理事 安村勇徳
