2025年の展望と抱負

 今年は巳年。巳(蛇)は、十二支の中で辰(龍)の後、午(馬)の前に位置する6番目の干支である。「蛇蝎(だかつ)のごとく嫌う」という表現があるが、ヘビはサソリと並んで嫌われ者の代表格として扱われており、蛇を苦手とする人は少なくない。その一方で、ペットとして根強い人気もあるようで、蛇に対する思いも人それぞれ、これも今流行りの「多様性」のひとつというべきか。このヘビが脱皮を繰り返して成長し、「生命力」や「再生」を連想させることから、古くから神聖なものとして扱われ、蛇にまつわる信仰や神話なども少なくない。

 旧約聖書のアダムとイブの物語に登場するヘビは、エデンの園でアダムとイブに「禁断の実・リンゴ」を食べさせ、これが「人類の堕落」の元凶になったとされている。日本神話に登場するヤマタノオロチ(八岐大蛇)の物語は、スサノオノミコト(須佐之男命)が一つの胴体に八つの頭と尾がある大蛇を退治するという、出雲(現在の島根県)を中心に語り継がれてきた神話で、大蛇が川の氾濫や洪水といった自然災害を、オロチ退治は治山治水などの防災対策を象徴していると解釈される。ちなみに、氾濫を繰り返して人々を困らせた大蛇に例えられているのは、島根県を流れる一級河川「斐伊川(ひいかわ)」であると言われている。

 閑話休題、新たな年を迎え「この一年がどんな年になるのか」を展望する。やはり気になるのは、米国の大統領選挙で「接戦」との下馬評を覆し、トランプ候補が圧勝し政権に復帰したことで、アメリカはどう変わるか?世界に及ぼす影響がどうか?である。とりわけ、同時に行われた議会選挙でも共和党が上下両院の過半数を獲得し、いわゆる「トリプルレッド*」であることから大胆な政策変更が予想される。特に共和党の掲げる保守的な政策が積極的に推進され、例えば減税や規制緩和などで企業活動が活発化し、経済成長が加速するという期待が高まる。さらには、共和党の保護主義的な政策が国際貿易に摩擦が生じ世界経済に悪影響を与える可能性や、特定の同盟国との関係が冷え込み、国際社会におけるアメリカのリーダーシップが弱まる懸念がある。

*注;「トリプルレッド」とは、米国で共和党が大統領職、上院、下院のすべてを掌握している政治状況を指す。共和党のシンボルカラーである赤色に由来する言葉。逆に民主党が占める場合は「トリプルブルー」という。米国で予算や法案を成立させるには上下両院の可決が必要なため、大統領の掲げる政策を実現しやすくなる。 2017年に大統領に就いたトランプ氏は最初の2年間、トリプルレッドの状態だった。

 一方、日本の衆議院選挙では自民党と公明党の連立与党が議席を減らして過半数を維持できず、その後に行われた衆院本会議での首相指名選挙を経て発足した第2次石破内閣は「少数与党」という脆弱な政治基盤で船出した。アメリカのトランプ政権の「トリプルレッド」とは真逆の、「少数与党」に転落した日本の保守政権は、より一層、厳しい国会運営を迫られることになる。議席を7倍に増やし野党第3党となった国民民主党が、キャスティングボードを握り、自民党と公明党に「部分連合」の形で政策協議に加わり、拡張的な財政政策が採用される可能性が高いとみられる。今年度予算成立をめぐる論議や、夏の参議院選挙向けての各政党の動向が注目されよう。

 スポーツファンならずとも多くの人が注目するのは、昨年ロジャースに移籍し数々の大リーグ記録を塗り替える活躍をし、「ワールドシリーズ優勝する」という自身の夢を達成した大谷翔平であろう。今年は「二刀流」として復活し、どんな活躍をするか目が離せない。アメリカの国技であるベースボール(野球)に、これほど多くの日本人が注目するのも、特筆すべきかとも思われるが、今年はどんなパフォーマンスを見せてくれるのかが期待される。一方、日本の伝統文化・国技である大相撲では、九州場所千秋楽で大関同士の相星決戦を制し初優勝した大関「琴風」が、「稀勢の里」以来となる「日本人横綱」になるか?これを追う「豊昇龍」や「大の里」を含め「綱取りレース」も筆者の楽しみである。

 さらに気になるのは、地球の気候変動は著しく、世界の平均気温はこれまでの記録を更新したことである。世界気象機関(WMO;World Meteorological Organization)が発表した「気候状況2024最新版」によると、大気中の温室効果ガス濃度はかつてないほど上昇し、2024年1~9月の気温は産業革命以前の水準を1.54℃超過、気候変動が加速しており、パリ協定の目標達成が危ぶまれるという。また日本では記録的な高温と多雨に見舞われ、9月から11月までの全国の平均気温は、1898年の統計開始以降の過去126年で2023年と並んで最も高くなった。当面この冬の平均気温は、全国的にほぼ平年並みと予想されているが、能登半島地震の被災地をはじめ日本海側では、ところによって大雪のおそれがあるとして、気象庁は雪への早めの備えを呼びかけている。

 当協会としてもこのような世界的な気候変動の及ぼす影響に注目しつつ、注意すべき様々な災害への備えに必要な情報を収集・発信し、防災訓練士の養成、BCP作成、防災訓練などに活用いただけるよう活動する決意です。今年も引き続き、暖かいご理解とご支援を、よろしくお願いいたします。

2025年1月10日
一般社団法人 防災訓練士協会
代表理事 安村勇徳