2024年の災害から学ぶ

 今年2025年の正月は、全国的には比較的穏やかな幕開けとなったが、北日本や日本海側では強力な寒波が襲来、記録的な大雪に見舞われ、雪国に生活する人々にとっては例年を上回る厳しい除雪作業を強いられる正月であった。2月に入ると、さらに全国的に冬型の気圧配置が強まり、日本列島は非常に強い寒気に覆われ、日本海側は大雪となり交通機関への影響や路面状態に厳重な警戒が必要となっている。特に筆者の現役最後の勤務地である北海道の帯広では、一夜で124㎝という記録的な積雪であったとの報道には驚かされた。当時は、20~30㎝程度の積雪でも大騒ぎで、除雪作業は職場の仲間に依存していたもので…。

一方、昨年は元日の能登半島地震で新年を迎え、その後も日本各地での記録的な大雨による災害が目立ったほか、8月には南海トラフ地震の臨時情報が初めて発表されるなど、危機意識を高めるきっかけとなる災害が重なった年であった。

 2024年の主な災害関連の出来事を振り返ると、元日に能登半島地震が発生、石川県輪島市などで震度7を観測、広範囲に津波が到達し死者は400人を超えた。6~8月は、各地で猛暑日の記録を更新し、全国の平均気温は統計開始以降、昨夏と並び最も高かった。8月には宮崎県沖でM7.1の地震が発生。これに伴い気象庁が南海トラフ地震の「臨時情報(巨大地震注意)」を初めて発表した。8~9月は台風10号が8月29日に鹿児島県に上陸、自転車並みの速度で迷走して九州や四国を横断、被害は長期間・広範囲にわたり130人を超える死傷者が出た。9月には奥能登地方などが記録的大雨に襲われ死者15人となった。

 このように振り返ってみると、2024年は「記録的な猛暑を含め、災害多発時代の幕開けを予感させる1年」であった言えるが、特に災害による死者がかなりの数にのぼったのには心が痛む。さらに能登半島地震では、石川県内の災害関連死が昨年12月15日時点で241人を数え、直接死228人を上回ったとの報道があった。関連死の9割超は70歳以上の高齢者で、停電、断水という厳しい環境下での避難生活が心身への負担となったとされる。読売新聞によれば「避難所などでの生活による心身の負担」37%が最多で、2番目の「電気、水道などライフラインの途絶による心身の負担」26%と合わせて全体の6割超を占めた。

この事態を受け政府は、避難所運営に関する指針を改定し、トイレカーの確保や温かい食事の提供、簡易ベッドの備蓄促進などに関し自治体に、国際的な指標「スフィア基準*」による避難所の環境改善を求めることとした。従来の指針では、被災者が雑魚寝を強いられ、トイレの衛生環境や入浴設備が不十分な避難所もあったが、今回の改定でトイレ、食事、生活空間、生活用水について大きく見直されることとなった。突発的な災害に遭遇し幸い直接死の危機から免れた後、避難所生活の中で大きなリスクを背負うようなことは、後期高齢者の筆者のみならずとも、だれもが避けたいところである。避難所の環境改善の早期実現を期待するところ大である。

*注;スフィア(sphere)基準は、アフリカの難民キャンプで死者が多数出たのをきっかけに国際赤十字などが1998年に策定、諸外国で避難所運営に活用されいる。スフィア基準とは通称で、正式名称は『人道憲章と人道支援における最低基準』という。災害、紛争の影響を受けた人の権利、その人たちを支援する活動の最低基準について定めている。

 政府は、さらに能登半島地震など度重なる災害の教訓を生かすため、事前防災から復旧・復興までを一元的に担う「防災庁」の創設を目指している。これにより、今後想定される南海トラフ地震や首都直下型地震などの大規模災害に備え、危機管理の体制を強化する。このため、現在の内閣府防災部門の予算と人員を増やし、専任の閣僚を置いて災害対応の司令塔とする考えで、2026年度中の設立に向け、昨年11月に準備室を発足させ、全閣僚による会議も設置した。将来的には、米国の連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency;FEMA)を参考に「防災省」へ格上げする見込みである。

 民間レベルでは、多発する災害を学ぼうという動きも広がっている。77人の死者が出た2014年の広島土砂災害の記憶や教訓を伝えるため2023年9月に開設された「広島市豪雨災害伝承館」には、災害への備えや避難方法などを学べる約100の講座が年間を通じて用意されている。被害状況などを紹介する展示のほか、当時の土石流を再現したCG映像で疑似体験もでき、昨年は年間目標の3倍近くにあたる2万人が来館したとされる。

 地震や風水害の被災地には、こうした伝承や追悼を目的にする施設が多くあるが、「地域で起きうる災害に関心を持ち、災害を自分ごとと考える」格好の場としてさらに活用されることが望まれる。今後の備えについて、「まずは住んでいる地域の災害リスクを正確に把握すること」が重要である。過去の発生状況を知り、地形やハザードマップで適切な避難方法などを確認し、自分自身や家族の安全を優先する対応を考えてることが、「過去に学ぶ」ことの原点であろう。

 このように、官民ともに近年多発する災害に備えるため、教訓に基づき様々な施策を具体化し、被害の軽減や早期復旧に資するよう、真摯な努力に取り組んでいる。当協会としても企業の防災対策に役立つ情報を収集して発信・提供できるよう年間を通じで活動してゆく所存です。今後ともご理解ご支援を宜しくお願いいたします。

2025年2月10日
一般社団法人 防災訓練士協会
代表理事 安村勇徳