世界の気候変動

「2024年は最も暑い年だった」といわれる中、2025年になっても日本では大雪や大規模な山林火災が発生し、気候変動の影響を痛感するこの頃である。2月26日岩手県大船渡市で起きた山林火災は、発生から1週間となる3月5日朝の時点でも鎮火せず、約4000人(市人口の13%)が避難生活を余儀なくされ、焼失面積は2600ヘクタール(市の8%)と拡大を続け、平成以降の林野火災では国内最大となった。乾燥や強風などの条件が重なり、少なくとも84棟の住宅などの建物に被害が出ている。火災が拡大した主な要因は極度の乾燥と強風で、大船渡の2月の平年降水量は41.0ミリだが、今年は観測史上最少の2.5ミリで、2月18日からは乾燥注意報が出されていた。

 2025年1月、アメリカのロサンゼルス周辺で発生した大規模な山火事は、広範囲にわたる被害をもたらし、焼失面積は1万5000ヘクタール以上で、1万6000棟以上が全焼した。この火災は、高温・乾燥した気候条件に加え、強風などの複合的な要因によって急速に拡大したとされる。このように、地球規模で温暖化や気候変動で気象が極端になる傾向が続き、大規模な山林火災がまた起きる可能性が高まっているといえよう。

 年明けの1月10日、世界気象機関(World Meteorological Organization; WMO)は、2024年の世界平均気温が、産業革命前の水準と比べて1.55度上回ったと発表した。気候変動対策の国際ルール「パリ協定」で、気温上昇を抑える目標とされている「1.5度」水準を単年で初めて超えたという。一方、日本の平均気温も観測史上最高を記録、2024年の平均気温が基準値(1991~2020年の30年平均値)を1.48度上回り、1898年の統計開始以降で最も高くなり、平年を1.29度上回った2023年から2年連続で過去最高を更新。猛暑や豪雨、台風、洪水、土砂災害などが全国各地で発生し、「異常気象」という言葉がしばしば聞かれた一年であった。

 気象庁は、30年に一回くらいの頻度で起こるまれな現象を「異常気象」と定義しているが、「異常気象」が数年に1回程度などの短い間隔で繰り返し起きるとなると、もはや「異常」ではなく、「常態」ということになる。このように異常が常態になったことを「気候変動」と呼ぶとされるが、その意味で2024年は、「異常気象」から「気候変動」が鮮明になった年と呼ばれることにもなりかねない。

 国連広報センター(UNIC; United Nations Information Center)によると、気候変動は、気温および気象パターンの長期的な変化を指すとしている。これらの変化は太陽活動の変化や大規模な火山噴火による自然現象の場合もあるが、1800年代以降は主に人間活動が気候変動を引き起こしており、その主な原因は、石炭、石油、ガスなどの化石燃料の燃焼である。森林伐採や化石燃料の使用で発生する二酸化炭素、メタンなどの温室効果ガスが地球を覆い、太陽の熱を閉じ込めることで気温が上昇する。このような人間活動で生じた温室効果ガスによって、地球の温暖化が進んでおり、過去200年間の地球温暖化の責任は人類にあるとしている。

 地球温暖化が進むなか、異常気象は実際に増加しているのか?具体的に昨年起きたことを振り返ってみると、地球規模での高温現象が記録を更新し、年間を通じて、世界中で高温や大雨、洪水が頻発した。中でも注目すべきは、7月21日に世界平均地表気温(通常は15度)が17.09度を記録、前年の世界記録をさらに上回る新記録である。その中でも特にアメリカのカリフォルニア州とネバダ州の境目に位置する「世界で最も暑い場所」といわれるデスバレー国立公園では54度(華氏130度)近くまで上がっていて、カリフォルニア州で1913年7月に記録した57度(華氏134度)という観測史上最高気温に迫る驚異的な気温が観測されている。このような高温現象は世界各地で発生して記録を塗り替え続け、2024年の世界の年平均気温は、+0.62度と過去最も高くなった。洪水や熱波、干ばつなどの異常気象が頻発しているのは、地球規模の温暖化の影響といえる。

 一方、日本でも年平均気温が観測史上最高を記録、猛暑日が続き急激な季節の変化をもたらしたのは記憶に新しい。温暖な春や秋をどこかへ追いやり、ゲリラ豪雨や台風の激化など、極端な気象現象が頻発した。

 特に気温が高かった夏から秋にかけては、様々な暑さの記録が生まれた。福岡県太宰府市の猛暑日の連続記録は、2024年の長く厳しい暑さを象徴している。7月19日に35.1℃を観測して以降、8月27日まで40日間にわたって最高気温が35℃以上の猛暑日が続いた。これまでの記録は24日間でこれを2週間以上も更新、年間の猛暑日日数も62日と歴代最多となった。秋になっても暑さは衰えず、9月20日には静岡市で39.2℃を記録。これは9月中旬以降としては統計開始以来の歴代最高気温である。

 昨年9月石川県能登地方で発生した大雨災害は、地球温暖化に伴い気温や海水温が上昇した影響で、雨量が約15%増えていたと気象庁が分析。温暖化で大気中の水蒸気量が増えたことが、雨量に影響すると考えられている。地球温暖化の影響で、能登地方周辺の気温や海水温は、1850年~1900年頃と比べて1.7度程度上昇している。海水温が高くなると流れ込む水蒸気の量が多くなる現象は続いており、今後も極端な大雨に注意が必要である。

 このような気象現象が多発する中、気候変動対策の取り組みを進めていくのことは「焦眉の急」であろう。

 トランプ大統領就任に伴い、温暖化対策のための重要な多国間の枠組みである「パリ協定」から、来年1月米国が再び離脱する見通しであることが明らかとなった。トランプ大統領は輸入品に関税を課すなど数々の大統領令を乱発しており、パリ協定からの再離脱は就任初日に署名したもの。米国は、トランプ第1次政権下の2020年11月に離脱したが、バイデン政権下の21年2月に復帰し、当時の離脱は4か月弱にとどまった。しかし、今回は第2次トランプ政権の任期満了まで、離脱期間が長期にわたる見通しであることから、その影響が懸念される。

 パリ協定は、国連気候変動枠組み条約に基づく、温室効果ガス排出削減のための多国間の枠組みで、約200の国・地域が参加している。パリ協定以前の京都議定書は、2020年までの世界の地球温暖化対策として先進国(日本、米国、欧州連合〈EU〉、カナダなど)だけに温室効果ガスの削減目標が示されていた。その後継となるパリ協定では、先進国・途上国関係なくすべての締約国が対象となり、2020年以降の将来の枠組みが定められている。参加国は5年ごとに削減目標を更新し、事務局へ提出する必要がある。パリ協定の採択は、「気候変動の脅威に対する世界の対応を強化する」という力強いメッセージを発信する契機となり、世界の気候変動対策の転換点となると期待されているが…。米国の離脱は国際社会の取り組みを逆回転させかねず、今後の議論の行方も注目される。

 歯科医院に通院していたある日のこと、かかりつけの歯医者から【デンタルIQ】という言葉を聞かされた。「何それ?」と聞けば、歯の健康維持や口腔ケア―に関する基本的な知識とのこと。治療中に交わす歯科医との会話から得られるデンタルにかかわる情報や医学用語は、知っていて得することがあっても損はない。患者の【デンタルIQ】が高いことが分かれば、治療する医者もそれなりの配慮をせざるを得ないのだと、その歯科医は教えてくれた。

 ヒイラギ通信の読者の方々もこれを機に【防災IQ】を高めるよう、意識されてみてはいかがですか?少しなりともそのお手伝いが出来るよう、浅学菲才の身を顧みず原稿を書かせていただく所存です。皆様のご意見・ご鞭撻がいただければ幸甚です。

2025年3月10日
一般社団法人 防災訓練士協会
代表理事 安村勇徳