災害は忘れる前にやってくる

 政府の中央防災会議の作業部会は、3月31日マグニチュード(M)9級の「南海トラフ地震」の新たな被害想定をまとめ、静岡県沖から宮崎県沖にかけて延びる太平洋岸の広い地域が、最大で震度7の揺れに見舞われ、津波は最も高い所で30メートル超に達すると発表した。今年の1月には南海トラフ地震について、今後30年以内の発生確率を「70~80%」から「80%程度」に引き上げたばかりであり、さらに、ミャンマー中部で3月28日午後、マグニチュード7.7の強い地震が発生、バンコクでは建設中のビルが崩壊するなど多数の死傷者が出て救助活動が続いているが、このようなタイミングでの「南海トラフ地震」の被害想定発表はさすがにインパクトが大きい。

 明治の物理学者で、夏目漱石に師事した随筆家の寺田虎彦が発した警句「天災は忘れたころにやってくる」はこれまでもよく耳にしたが、今や災害は多発し「天災はわすれていなくてもやってくる」* と小学生の教育の場でも言われるような時代に大きく変化している。最近は気象庁が30年に一度あるかないかの豪雨や酷暑などについて「異常気象」*として厳重な警戒を呼びかけることが多くなっているが、その頻度の多さは驚くばかりである。

*注;小学6年道徳の教材で使われている表現。
教材名〔安全への備え〕、教育の狙いは「自分の生活を見直し、災害から身を守り節度ある生活をしようとする態度を育てる」。

*注;「異常気象」の定義
 一般には、過去に経験した現象から大きく外れた現象。大雨や暴風等の激しい数時間の気象から、数か月も続く干ばつ、極端な冷夏・暖冬を含む。また、気象災害も異常気象に含む場合がある。気象庁では、気温や降水量などの異常を判断する場合、原則として「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節)において30年に1回以下で発生する現象」を異常気象としている。

 我が国は、地震や火山活動が活発な環太平洋変動帯に位置し、世界面積の0.25%という極めて小さな国土面積に対して、地震発生回数は全世界の18.5%と非常に高い割合になっており、地震大国と呼ばれる所以であるが、30年前の阪神淡路大震災以降でも大きな地震が頻発している。主な地震は、

 兵庫県南部地震(阪神淡路大震災);1995年1月17日、兵庫県南部を震源として発生した直下型地震、神戸と洲本で震度6を観測、東北地方から九州地方にかけて広い範囲で震度5~1を観測した。

 新潟県中越地震;2004年10月23日、新潟県中越地方を震源とした直下型地震、震度計による観測が始まって以来初めてとなる最大震度7を観測。交通網寸断で集落が孤立、さらに地盤が緩んでいたことで直近に発生した台風により、土砂災害の被害が拡大した。集落が孤立したほか、住民の避難を困難にし、その後の救援物資の搬入やライフライン復旧の大きな障害となった。

 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災);2011年3月11日、三陸沖を震源とする戦後最大の超巨大地震、宮城県で震度7、その近県4県で震度6強を観測したほか、北海道から九州にかけて広い範囲で揺れを観測した。大津波による被害が甚大で、震源地に近い三陸海岸では多くの地域で浸水高が20~30mを超過する大津波を観測した。特に高い津波が到来した宮城県、岩手県、福島県では人的被害の99%を超える19,214名の被災者が出た。原子力発電所の被災は深刻で、太平洋沿岸部に立地する東京電力福島第一原子力発電所の原子炉を緊急自動停止させる事態となり、大津波により全電源が喪失、原子炉の炉心冷却機能が停止した。水素爆発と火災が確認されたほか、放射性物質が外部へと放出される事態へ発展し、半径20km圏内が「警戒区域」として立ち入り禁止となった。

 熊本地震;2016年4月14日、熊本県熊本地方を震源とする巨大地震、前震が発生しその後に本震が発生、いずれも最大震度7を観測した。建造物の倒壊が多く、構造部材や非構造部材等の部分的な損傷により、庁舎・体育館などの避難所や、病院・共同住宅等で、地震後に継続使用ができない事例が確認された。

 北海道胆振東部地震;2018年9月6日、胆振地方中東部を震源として発生した地震、震度7を観測したほか、その翌年2月にかけて震度5弱~6弱程度の地震が度々発生した。厚真町で山腹から大規模に土砂が崩れ、民家を直撃したことで多数の死者と重軽傷者が発生した。土砂災害は227件にも及ぶ被害をもたらした。

 能登半島地震:2024年1月1日、石川県の能登半島を震源として発生した地震、輪島市と羽咋郡志賀町で最大震度7を観測。石川県能登地方では、2018年頃から地震回数が増加する傾向が続き、20年12月からは活動がさらに活発化、震度7が記録されたのは、2018年の北海道胆振東部地震以来7回目であった。短期間で震度7を何度も記録したのは観測史上初めて。

 阪神淡路大震災以降を調べてみると、気象庁が定める異常気象の目安とされる「30年に一度」の間に、巨大地震が「6回」も起きていることに改めて驚かされる。多発する大地震や気候変動の影響による自然災害の頻発、災害リスクの高まりを考えれば、「天災は忘れたころにやってくる」という言葉はもはや過去のものであり、今や「災害は忘れる前にやってくる」時代となったと言えよう。

 このような時代背景から、防災の重要性は広く認識されているが、大企業はともかく、多くの中小企業では本業の忙しさから防災対策に手が回らず、BCP(事業継続計画)の策定や防災訓練が十分に進んでいないのが現状と思われる。当協会では、企業が防災対策を実行に移すための現実的な解決策として、社内に防災を担当する専門家として「防災訓練士」を養成しBCP作成や防災訓練を担当させることを推奨、様々な情報提供や企画提案を準備し、皆様のご利用をお待ちしています。お気軽にお問い合わせください。

2025年4月10日
一般社団法人 防災訓練士協会
代表理事 安村勇徳