2026年、新しい年が幕を開けた。“Good news and Bad news” 昨年は様々な出来事があったが、アメリカ大リーグ(MLB)における日本選手の活躍は、明るいニュースのひとつである。特にドジャースの大谷翔平選手は、二刀流が復活し投打にわたる活躍で球団初となるワールドシリーズ(WS)連覇に大きく貢献した。その功績が評価され、MLB公式の最優秀選手賞(MVP)を自身の最多記録を更新する4度目(3年連続4度目)として満票で受賞している。また、WS第7戦で、山本由伸投手が2試合連投で登板しチームを球団史上初の連覇に導いた活躍も記憶に新しい。大谷は今春開催予定のWBCへの出場を既に表明しており、大会2連覇を狙う侍ジャパンの一員としてどのような活躍を見せるのか、3月の来日が楽しみである。
一方、日本の国技大相撲では、大の里が3月春(大阪)場所、5月夏場所と2場所連続優勝を果たし横綱に昇進。9月には、稀勢の里以来8年ぶりとなる日本人横綱優勝を成し遂げた。11月の九州場所でも好調で連続優勝が期待されたものの、千秋楽に突然休場する事態となり暗転した。横綱決戦不戦勝となった豊昇龍の優勝かと思われたが、ウクライナ出身の関脇・安青錦が大関・琴桜を破り、横綱・豊昇龍との優勝決定戦を制して初優勝を果たした。大関昇進もきまり、2横綱2大関が揃い充実した番付となった今年の大相撲からも目が離せない。
閑話休題。2025年の大きな災害や異常気象について、企業防災の観点から整理してみたい。最も顕著であったのは、記録的猛暑による高温リスクの極端化である。昨夏は全国153地点中132地点で夏の平均気温が観測史上最高、またはタイ記録となった。地域別では、北日本で+3.4 ℃、東日本で+2.3 ℃、西日本で+1.7 ℃と、平均偏差はいずれも極めて高い値を示している。8月5日には群馬県伊勢崎市で 41.8 ℃ を記録した。環境省の異常気象分析によれば、この高温は地球温暖化がなければ発生し得ないレベルであり、現在の温暖化水準でも「数十年に一度」の希少事象と評価されている。
高温に加え顕著だったのが、大雨や線状降水帯発生による集中豪雨リスクである。8月上旬には前線の影響で九州地方を中心に線状降水帯が発生し、熊本県では8月11日未明に 大雨特別警報 が発令さた。浸水や土砂災害など広範な被害が生じている。また、9月の記録的豪雨では、四日市市のパーキングにおいて地下1階・2階に駐車されていた車両274台が水没した。当該駐車場を管理する会社の防災計画では、国交省と連携し毎年土嚢や止水板を設置する訓練をするとしていたが、2017年以降6年間にわたり実施していなかったことが判明している。
こうした状況を受け、気象庁は線状降水帯や台風などの気象災害に対する防災情報体系の整理・活用の最適化を進めており、年内には新たな防災気象情報の運用が予定されている。
地震リスクも看過できない。鹿児島県のトカラ列島では、6月から7月にかけて約900回を超える群発地震が発生し、最大で震度5強(マグニチュード約5.5)を記録した。死傷者は報告されなかったものの、住民の避難が発生している。
また、7月30日にはカムチャッカ半島沖でマグニチュード8.7の地震が発生し、日本沿岸部に津波警報が発令された。JR東日本は東海道線や横須賀線、東北線など太平洋側を中心とした路線で運転を取りやめ、影響は広範囲に及んだ。夏休み期間中であったこともあり、観光地や沿岸部で稼働中の工場・店舗を直撃した。加えて、津波警報を巡り、X(旧ツイッター)などのSNS上で真偽不明の情報が拡散する事案も発生した。政府報告では、南海トラフ巨大地震による経済被害や被災者数について想定の見直しが行われ、数十万人規模の犠牲者や大規模避難の可能性が議論されている。
さらに、12月8日には青森県東方沖を震源とするマグニチュード7.4の地震が発生し、八戸市で震度6強を観測した。翌9日には、日本海溝・千島海溝沿いにおいて、先発地震の後に巨大地震が発生する可能性があるとして、「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が発表される事態となった。これらの事象は、日本列島における地震リスクと地殻活動の不透明性が依然として続いていることを示している。
火災リスクも顕在化した。11月18日、大分市佐賀関で大規模火災が発生。強風下の狭隘な住宅地で老朽木造建築が延焼を拡大させ、170棟以上が焼失、焼損面積は約 48,900㎡に及んだ。古い木造住宅や過疎・高齢化が進む地域では、特にリスクが高いことが指摘されている。また、香港においても高層ビル火災で多数の犠牲者が出るなど、都市火災や風火リスクの顕在化は、今後も留意すべき課題であろう。
2025年の特異な災害として注目されたのが「熊災害」である。特に東北地方では、クマの出没が増加し住宅地や公園など人間の生活圏まで侵入する事例が相次いだ。死傷者は220人以上、死者は13人に上るなど、過去最悪の水準に達している。背景には、ブナの実の不作に加え、クマの個体数増加、人間の活動や環境変化によりクマが人里に近づきやすくなったことがある。対応に窮した自治体は自衛隊の出動を要請する事態にまで発展したのも、注目すべき事象である。
このように振り返ると、2025年は各種の災害が多発し、企業活動に深刻な影響を及ぼす事態が日本各地で発生した年であったことが分かる。こうした状況を踏まえ、2026年において企業防災はどのように変化していくのか。以下、主要な4つの視点から展望する。
気候変動は「常態化フェーズ」へ
― 高温・豪雨は異常ではなく前提条件となる
2025年まで続いた猛暑や線状降水帯の多発を受け、2026年は「異常気象を例外ではなく、年間計画に組み込むべき常態」として扱う必要がある年となる。猛暑は引き続き発生する可能性が高く、職場における熱中症対策は「季節対応」から「通年の安全対策」へと移行する。
また、豪雨・線状降水帯の頻発を背景に、水災リスクマップの前提条件を上方修正する企業が増加し、洪水や内水氾濫に対する「想定外」が減少する。拠点立地の再評価や、再配置・移転検討が加速することも想定される。
突発的な地震・火山災害を想定した事業継続シナリオの再構築
トカラ列島の群発地震や、南海トラフ巨大地震に関する国の被害想定見直しを踏まえ、2026年は地震リスクを前提とした事業継続シナリオの再構築が進む年になる。南海トラフ、首都直下、北海道沖(千島・日本海溝)など、複数の地震リスクシナリオを保有する企業が増加すると思われる。拠点自体が被災していなくても、物流停止によって事業が継続できなくなるシナリオの重要性は一層高まる。クラウド活用が進展する一方で、IT基盤は物理設備に支えられていることから、IT資産の強靭性再評価も不可欠となる。加えて、大分市の大規模火災を契機に、密集市街地に立地する施設の防火対策や避難確保が経営課題として浮上する可能性がある。
サプライチェーンリスクの構造変化が本格化
2025年は、猛暑や豪雨による製造遅延、物流障害が顕在化した年であった。2026年は、これらを踏まえた企業側の構造的対応が求められる。特定地域に依存する製造拠点や物流倉庫の分散が進み、熱波による電力逼迫、港湾作業停止、水害による高速道路閉鎖といった事象は「織り込み済みリスク」として扱われるようになる。調達先の事業継続能力を定期的に検証する仕組みが、企業間で標準化していくと考えられる。
防災が「安全管理」から「経営戦略」へ
災害多発を背景に、2026年は防災・レジリエンス*投資をどこまで戦略的に進められるかが、企業競争力を左右する年となる。経営層が気候適応投資を戦略課題として認識する傾向が強まり、企業防災の「見える化」は、ガバナンス評価における投資家・株主への説明責任の一部となる。非常用電源、断熱強化、自家発電、雨水貯留などの設備投資が増加し、特に物流、製造、電力・インフラ分野では、10年単位の中長期レジリエンス投資計画が策定される動きが進むだろう。
*注:レジリエンス(Resilience)とは、回復力・復元力を意味する言葉で、ラテン語の「resilire(跳ね返る)」を語源とする。災害分野では、災害対応力、災害回復力、復興力などを指し、国や企業といった組織が災害に直面した際、いかに回復し、事業や社会機能を維持・再生できるかという能力を意味する。
2026年の企業防災を展望すると、「気候変動型リスク」と「従来型災害」が同時に企業経営へ実害を及ぼし始める転換点の年になると考えられる。単一災害を前提としたBCPから、高温、豪雨、地震、都市火災、電力逼迫といった複数リスクを同時に考慮する「複合BCP」への進化が求められる。
企業のレジリエンスは、もはや単なるコストではなく、企業価値を構成する重要な経営資産として評価される時代に入ったと言えるだろう。
2026年1月10日
一般社団法人 防災訓練士協会
代表理事 安村勇徳
