―ヒイラギ通信2025年度 一年間を振り返って―

 2025年も、わが国において自然災害が現実の脅威として立ちはだかる一年となりました。例えば、6月下旬から7月上旬にかけて、トカラ列島(鹿児島県の離島群)において、2週間で900回を超える地震群が観測され、最も強い揺れは震度5強に達しました。

 また、9月には 台風15号(ペイパー) が西日本から東日本へ進み、特に 静岡県牧之原・焼津地域では、台風の外側の暴風帯がJEF3クラスの強い竜巻を伴い、建物倒壊・車両転覆・80人以上の負傷をもたらしました。こうした“想定外”に近い事象が、地域の備えや体制の脆さを浮き彫りにしました。

さらに、制度面でも、政府が「南海トラフ巨大地震」クラスの災害が今後30年以内に発生する確率を75%~82%とする更新報告を公表。最大で約30万人の死者、約200兆円を超える経済被害の可能性を示したことで、“日常備蓄”や“避難情報の確実な流通”がより重要になりました。

法制度・国の動きの変化

今年は、防災・減災の制度的な枠組みが着実に進化した年でもあります。特筆すべき変化を以下のように整理しました。

  1. 災害対策基本法等の一部を改正する法律(令和7年法律第51号)の成立・施行
     6月4日に改正法が公布され、7月1日をめどに一部規定が施行されました。
     この改正では、例えば「国・地方公共団体・住民それぞれの役割分担の明確化」「避難行動要支援者の名簿・個別避難計画の制度化」「発災直後の情報収集・資源配分体制の強化」などが改めて規定されています。
     これにより、「いつ起きてもおかしくない」大規模災害に備えた体制整備が一歩進んだと言えます。
  2. 国・地方における防災計画・実効性の強化
     改正後の制度では、単に計画を作るだけでなく「訓練・検証・改善」のサイクルを明文化する動きが強まりました。例えば、今回の改正では科学的知見や過去災害からの教訓を“継続的に改善すること”が条文としても強調されています。
     また、地方公共団体においては地域防災計画、更には協力企業・民間事業者も含む防災体制を整える責務があらためて問われています。
  3. 「防災庁」設置に向けた動き
     国は、令和7年(2025年)1月から有識者20人を集めて「防災庁設置準備アドバイザー会議」を8回開催、6月4日には報告書がとりまとめられています。「防災庁」の基本的な方向性としては、(Ⅰ)中長期かつ総合的な防災の基本政策・国家戦略の立案、(Ⅱ)関係者間のコーディネートによる事前防災の推進・加速、(Ⅲ)被災地対応で“ワンストップ窓口”として発災から復旧・復興までを一貫して担う司令塔機能―という3つが掲げられています。
     この動きは、従来の各省庁横断型・分散型の防災体制から、より“政府中枢+専任機関”という構造への転換を示唆しています。つまり、制度設計・実動・検証を一体化させる防災体制へのシフトと言えます。
  4. 民間・企業・地域との連携強化
     制度改正・体制強化と平行して、国や地方自治体は、企業・NPO・地域住民を含めた「共助・自助」の視点を法体系に組み込んでいます。たとえば、地域防災計画内における事業者の役割明記や、被災者支援・避難所運営への民間参加、ボランティアとの協働促進も法律・制度設計上、より明確になってきました。
     この背景には、災害対応はもはや“行政だけが担うもの”ではなく、“社会全体で構える”という認識の浸透があります。

協会の活動報告(2025年度)

 本協会では、2025年度も「実践を通じて学ぶ防災」をテーマに、各地で多様な訓練と支援活動を実施してまいりました。

 まず、救護訓練では、AEDの使用法、心肺蘇生、三角巾を用いた止血・固定など、初期対応に必要な実技を体験的に学びました。これらは、誰もがその場で行える「いのちをつなぐ行動」であり、参加者一人ひとりが“自分ができること”を具体的に身につける機会となりました。

 次に、消火訓練では、実際に消火器を操作し、初期消火の判断や安全な避難誘導の重要性を確認しました。“イザ“というとき、知識だけではなく「体が動く」状態をつくることが、訓練の最大の意義です。

 また、企業・団体を対象に実施した災害対策本部立ち上げ訓練では、限られた情報の中での判断、役割分担、報告・連絡体制の整理を実践的に体験しました。災害時の混乱を想定したシナリオの中で、各組織が「何を優先すべきか」「どう決定するか」を体験することで、多くの気づきと改善点が見つかりました。

 さらに、BCP(事業継続計画)支援においては、既存計画の見直し、新規策定の両面から企業・団体をサポートしました。机上の文書としてのBCPではなく、「現場で動くBCP」を目指し、実際の訓練やワークショップを通じて、現場担当者自身が課題を発見し、改善に結びつける取り組みを重ねました。

 こうした活動を通じて、改めて実感したのは、「訓練を行うことで新たな気づきを得て、次につなげる」という本協会の理念が確実に根づき始めていることです。訓練で得られた気づきは、想定外を減らし、危機対応力を一段高めることにつながります。そして、その学びをBCPに反映させることで、組織全体の防災力が確実に向上しています。

 特に今年は、「連携型BCP」への関心と要望が増加したことも大きな特徴です。これは、企業単体ではなく、取引先・協力会社・地域との連携を前提にした事業継続体制を整える考え方であり、社会全体のレジリエンスを高めるものです。大企業ではすでに一般的ですが、むしろ人員・資源が限られる中小企業こそ、この取り組みが重要であると私たちは確信しています。

2026年度に向かって

―“防災を文化に”という歩みを、さらに次のステージへ―

 私たち防災訓練士協会は、この一年を通して、「訓練を通じて学び、行動に変える」ことの大切さをあらためて実感しました。訓練は単なる防災イベントではなく、気づきを生み出し、想定外を減らし、人と組織を強くする“場”です。
 その積み重ねこそが、社会の底力を高め、未来への備えを確かなものにします。

 2026年度に向けて、私たちはこの実践の輪を、さらに広く・深く展開していきます。
 まずは、これまでの訓練やBCP支援で得た知見を体系化し、「学びの共有」を一層進めます。訓練士同士が互いに経験を持ち寄り、地域や企業の枠を超えて協力し合うことで、現場の力を束ね、より実践的な教育・訓練モデルを築いていきたいと考えています。

 また、今後は「連携型BCP」を軸とした中小企業支援の強化にも力を注ぎます。限られた人員や資源の中でも、地域・取引先・自治体との連携を通じて持続可能な体制を築けるよう、伴走型の支援や共同訓練を推進してまいります。BCPは紙の計画ではなく、“人と人をつなぐ行動計画”であることを伝え続けたいと思います。

 さらに、教育・地域・企業・行政が一体となって「防災を文化に」変えていくために、私たちは引き続き、現場の声に耳を傾けながら、訓練と対話の場を丁寧に育てていきます。

 ヒイラギの葉が冬にも緑を保ち、棘をもって身を守るように、私たちもまた、しなやかに、そして強く。2026年度も、“いのちをまもる文化”を社会に根づかせるために、一歩ずつ着実に歩みを進めてまいります。

 本協会は、こうした「訓練を通じて学び、つなげる防災文化」をさらに広げ、どの組織も自らの力で備えを強化できる社会の実現を目指して、来年度も活動を続けてまいります。

2025年12月10日
一般社団法人 防災訓練士協会
理事 竹田信之