日本の四季が消える?

「言うまいとおもえど今日の暑さかな」(作者不詳)。立秋を過ぎて一カ月が過ぎても真夏のような暑さが続く毎日、この異常な天候は毎年のように再現する。子供のころ残暑に耐えかね「暑い、暑い」と愚痴をこぼしていると、「ぼやくんじゃない!夏が暑いのは当たり前だ!」と、里の長老に一括された。夏が暑く冬が寒いのは当たり前で、そうでなかったら困る仕事をしている人がたくさんいるのだと。だとしても実際のところ、記憶に残る子供のころの暑さと、昨今の暑さはあまりにも違いすぎる。

「日本には四季がある」私たちは幼い頃からそう教えられ、春の桜、夏のひまわり、秋の紅葉、冬の雪景色といった美しい移ろいを「春夏秋冬」、当たり前のものとして享受してきたのだが…。しかし近年、この「四季」が曖昧になり、まるで夏と冬の「二季」しかないかのような感覚に陥ることが増えている。気候変動が叫ばれる現代において、日本の気候は本当に「二季化」してしまうのだろうか?

 2025年の春、東京の桜は例年よりやや早い3月21日に開花し、4月上旬にはあっという間に散ってしまった。その間、25℃を超える「夏日」も観測され、花見の季節は汗ばむ日差しの中で過ぎ去った。気象庁のデータによれば、2025年春の日本の平均気温は平年より+0.8℃高く、この傾向は過去10年間でますます顕著になっている。

 さらに、梅雨。関東甲信地方は6月10日に梅雨入りしたが、「梅雨らしい雨」がほとんどなく、晴天と高温の日が続いた。結果として、7月に入っても梅雨明けの発表が出せないまま猛暑に突入し、7月上旬の都内ではすでに35℃を超える猛暑日が複数日記録され、熱中症搬送者は全国で急増した。

 2025年の立秋は8月7日、「文字通り暦の上では秋」なのだが、訪れる秋の気配は皆目見当たらず、「小さい秋」は一体どこに隠れているのか?「残暑の候」とひとくくりにしても、「真夏日」、「猛暑日」や「40度を超える暑さ」が続き、これまで涼しいイメージだった北海道でも39度台を記録するなど、日本全国がかつてない暑さに見舞われている。

 9月1日の読売新聞朝刊には、「8月最後の日曜日となった31日、高気圧に覆われた影響で九州から関東は広く晴れ、各地で厳しい暑さが続いた。名古屋市では40.0度を記録したほか、愛知県豊田市で39.6度、岐阜市などで39.2度となった。今年に入って国内で40度以上を観測したのは30日に続き9日目で、過去最多を更新した。35度以上の猛暑日となる地域も相次ぎ…(略)」との1面記事が目に留まった。

 気象庁では、1日の最高気温によって、「夏日」は最高気温が25度以上30度未満の日、「真夏日」は30度以上35度未満の日、そして「猛暑日」は35度以上の日と定義している。また、「酷暑日」ともいうべき「40度以上の日」について、気象庁の正式な分類では特別な呼称は設けられていない。つまり、気象庁の分類では、気温が40度を超えても、気象学的には「猛暑日」の範疇に含まれることになる。これは、猛暑日が制定された当時、40度を超える日がそれほど頻繁ではなかったからではないかと推察される。

 しかし、2022年夏に日本気象協会が酷暑日を、「日最高気温が40℃以上になった日のことを指す」と命名。これは、体温(約37℃)を優に超えてしまう酷暑日下では、熱中症へのリスクが極めて高くなり、より効果的に暑さへの注意喚起を行えるようにと、日本気象協会が独自に命名した言葉であり、気象庁が定義しているものではない。

 実際、日本で最高気温が40℃を超えるのは非常に稀で、2025年7月末現在、酷暑日を一度でも観測したことがある地点は、全国約900ある観測点のうち43地点。観測回数は、北日本で4回.東日本68回、西日本11回あり、最も観測回数が多いのは岐阜県で、次いで群馬県・埼玉県と、内陸県が多くなっているほか、新潟県などフェーン現象の影響を受けやすい日本海側の地域でも観測回数が多くなっている。

 西日本での酷暑日の事例は意外にも少なく、なかでも南国のイメージの強い九州・沖縄ではこれまで酷暑日の観測記録は一度もない。特に沖縄地方は、四方を海に囲まれているため海洋性の気候色が強く、内陸に比べて気温が上がりにくい(下がりにくい)という特徴があり、そのため最高気温は過去の記録を全地点遡っても36℃台となっている。

 気象協会が酷暑日を命名するに至った2022年以降、毎年繰り返す暑さの中「春と秋の不在」を実感する人も少なくないのではないだろうか。温暖化・気候変動の時代と言われる昨今、日本らしい「四季」の変化が次第に失われ、「春」と「秋」が消え、「夏」と「冬」だけの「二季」になるということなのか。季節の変化がおかしくなってきているという認識は、体感的には「春と秋の消滅」としてイメージされるが、実際の状況としては、単純に「夏が長くなっている」という状態として捉えることがもできる。

 一般論として1日の最高気温が30℃前後~の状態を「夏らしい気温」として考えた場合、その基準を超える日数は子供のころと比べると明らかに増加している。近年は6月・9月の猛暑日や、5月・10月の真夏日といったケースも多く、夏らしさは7・8月だけの要素ではなくなっているのは、ここ数年にみられる気温推移の大きな傾向である。

 もっとも、日本は「都市人口」の比率が高い国であり、首都圏・京阪神をはじめ大都市圏は、地球温暖化のみならず、特に朝の最低気温(熱帯夜の増加)は都市化による「ヒートアイランド現象」でより気温が大幅に高くなる側面があり、都市部とそうでない地域では、季節に関する体感が大きく違う場合があると考えられる。とりわけ、四季折々の季節の到来を教えてくれる自然の風物に接する機会の少ない都会暮らしでは、暑さ寒さの違いを感じるだけの日常が多いからともいえよう。

 季節が「二季化」すると言われる中では、冬から夏までの期間が短くなり「春らしさが感じられない」ということがある。一方、気温のデータで見ていくと、春は消えたというよりは「より早まった」という認識が無難かとも思われる。近年は3月の気温が異常に上昇しており、気温上昇の度合いは昭和の時期の寒い3月と、近年の3月では5℃程度に達している場合もある。5℃の気温差となると、季節が1つ違う段階にあると言わざるを得ない。

 かつての3月は、「三寒四温」と言われるように、春の入り口と冬の名残りが色濃く見られる季節だったが、近年は異常な気温上昇により、2月までの「冬」と3月以降の「春」が明確に区切られるような状況が増えたと言える。この様に、3月の冬の名残りとしての性質が失われ、温暖な季節への変化を強く印象付けることから、「冬からすぐに夏になる」イメージを強めているものと思われる。

 一方、秋が短いのは「11月と12月の気温差」が要因である。「秋が短い」と言われることが、1年の季節変化の中でも特に増えているようだが、この「秋の短さ」は、データを見ると、「11月までの気温」の大幅な上昇が影響していると考えられる。「平均気温」の変化を見ると、秋の中でも特に11月は、以前と比べ高温傾向が強まっており、肌寒い日となる頻度が減っている。一方で、冬に入った12月の気温は、昔と今の気温差は比較的少なく、気温の上昇はそれほど大きくないので、12月は意外と「冬らしい季節」となっている。すなわち、極端に温暖化する11月と、それほど温暖化していない12月の気温差が、以前と比べ拡大していることから、その気温の落差が「秋が短い」イメージを強めている要因の一つと思われる。

 では、この秋は一体どうなるのか? 今年の7月は全国の平均気温が明治時代に統計を取り始めてから最も高くなったほか、8月5日には群馬県伊勢崎市で41.8度を観測して過去最高を更新した。お盆を過ぎても各地で猛烈な暑さが続いており、ことしも残暑が厳しく、秋も暑くなる見込みである。気象庁の3か月予報では季節の進行が遅く、9月と10月は平年より気温が高いと予想、「暦の上では秋でも高温が予想されているので、熱中症対策を続けてほしい」と呼びかけている。

 気象庁が発表した9月から11月の3か月予報では、フィリピン付近などで海面水温が高いことなどから太平洋高気圧とチベット高気圧が張り出しを続け、上空の偏西風は平年より北寄を流れる見込みで、日本付近は引き続き暖かい空気に覆われやすくなるという。このため季節の進行が遅く、3か月を通して平均気温は全国的に「高い」との予想で、特に9月と10月は全国的に「高い」、11月は北日本で「高い」、東日本は「平年並みか高い」、西日本と沖縄・奄美では「ほぼ平年並み」となっている。

 気象庁異常気象情報センターによると、「秋の深まりといった季節の進行が遅い傾向が予想されていて、夏が長く、冬がすぐに来たという体感になる可能性もある。暦の上では秋でも高温が予想されているので、油断をせずに熱中症対策を続けてほしい」と注意を呼び掛けている。

 遅い秋の到来を待ちながら、四季を愛でる感性豊かな心を挫きかねない連日の猛暑に負けないよう、気を持ち直し、身の回りにセンサーを広げて、「かすかな虫の音」や「密かに色づく木の葉」などを探し、近づく秋の気配(小さい秋)を見つけてみたいと思うこの頃である。

2025年9月10日
一般社団法人 防災訓練士協会
代表理事 安村勇徳