南海トラフ地震注意発令と帰宅困難者

 今年の8月8日に宮崎県で震度6弱の揺れを観測したマグニチュード7.1の地震を受け気象庁は、南海トラフ沿いで近い将来に「巨大地震」が発生する危険性が高まっているとして、初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表し、防災対応の再確認を呼びかけた。臨時情報発表から1週間、想定震源域で異常現象が観測されなかったことから、臨時情報(巨大地震注意)を終了したが、災害に対する備えをどうすべきかを改めて考えさせられる事案であった。また、筆者の住む神奈川県中部では、この注意報発表直後に強い揺れを伴う地震があり、「南海トラフの東部で何かが起きるのか!」、或いは、「富士山噴火の予兆ではないか!」などと、大きな災害の発生が急に心配になる程の絶妙のタイミングで思いがけない強震を体感することとなった。

「巨大地震注意」発令の翌日、8月9日午後7時57分ごろ、神奈川県西部を震源とする最大震度5弱の地震が発生した。短時間であったが下から突き上げるような強い衝撃を伴なう揺れを感じた。マグニチュード(M)は5.3、震源の深さは約10キロ。気象庁によると、この地震による津波の心配はないという。 隣の厚木市の震度は5弱、筆者の自宅では震度4であった。幸いこの地震による大きな被害はなかったが、電車が長時間にわたり運行されなかったことから、駅周辺にはバスやタクシーを待つ人々が長蛇の列を作り大勢の人で大混乱を招いた。知人の某銀行の支店長は、この状況を見てタクシーの利用をあきらめ、歩いて帰宅する道を選んだという。郊外の街でのこの程度の地震であっても、帰宅の時間帯を直撃した地震は、多くの帰宅困難者を生じることとなったといえる。

 2011年に東日本大震災が発生した際には、首都圏において515万人の帰宅困難者が発生したといわれている。「帰宅困難者」とは、災害によって徒歩による帰宅が困難な状況に陥ってしまった人のことで、被災した土地から自宅までの距離が離れている場合に該当する。内閣府の定義によれば、自宅までの距離が10kmまではすべての人が「帰宅可能」、20km以上はすべての人が「帰宅困難」となっている。

 このような帰宅困難者に対し企業はどうすればいいのか、その対応について一通り検討し、確認しておくことが必要である。企業に求められる帰宅困難者対策の基本は、一斉帰宅をせずに施設内(事業所内)で待機することである。このため、従業員・家族の安否を確認するとともに、従業員の待機期間や帰宅方法を適切に管理する必要がある。またできれば、従業員以外の滞留者の受け入れも想定しておくことが望ましい。

 帰宅困難者を支援するためには、企業等における施設内待機のための場所と備蓄の確保が必要である。待機のための場所は、収容する人数に見合ったスペースがあることとともに、待機中の余震や火災発生、さらにオフィスの家具類の転倒やガラス飛散などに対し安全であることが必要である。収容スペースが不足することが想定される場合は、近傍の「一時滞在施設」を利用するようあらかじめ計画しておくことも重要である。

 従業員を施設内に安全に留めおく期間は、3日程度を目安として水や食料と防災グッズをなどの「非常用備蓄用品」を準備することとされている。これは、内閣府のガイドラインで、各行政機関による帰宅困難者に対する支援は、災害発生時の状況や行政からの避難指示などによって対応は変わるものの、「発災後3日目まで救命救助活動、消火活動等を中心に対応し、地震発生後4日目から帰宅支援に移行していくこととする」とある。このことから備蓄量の目安は3日分とするが、さらに、予備として3日分以上の備蓄や外部の帰宅困難者のため10%程度の量を余分に備蓄することも検討する必要があろう。

 3日分の非常用備蓄品としては、内閣府の「一斉帰宅抑制における従業員等のための備蓄の考え方」に示す「備蓄品リスト」が、具体的な3日分の備蓄量の目安はとなる。

  1. 水、1人当たり1日3リットル、計9リットル
  2. 主食、1人当たり1日3食、計9食
  3. 毛布、1人当たり1枚
  4. その他、敷物(ビニールシート等)、保温シート、簡易トイレ、衛生用品(トイレットペーパ等)、携帯ラジオ、懐中電灯、乾電池、救急医療薬品類物資など

 これらは従業員だけでなく、訪問客や地域の方など従業員以外の人数も考慮して備えるとよい。また、施設内の安全性を確認しておくことも大切で、耐震性の診断やそれに応じた補強を実施することで、滞在者が安心して過ごせる環境を確保することが重要である。

「備えあれば憂いなし」古くから言い聞かされた「先人の言葉」ではありますが、8月に経験した「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の発表は、改めて「災害への備え」を見直す機会を与えてくれたと痛感した方々は少なくないと思われます。これは改めて企業としてどのような備えができているのか、追加検討すべき課題は何かを考える良い機会であると考えます。当協会は、皆様のニーズにお応えし「災害への備え」をお手伝いできるよう様々な提案を準備してお待ちしています。お気軽にご相談ください。お待ちしています。

2024年10月10日
一般社団法人 防災訓練士協会
代表理事 安村勇徳