災害大国日本

 災害大国ともいうべき我が国では、2024年になってからの10カ月間でも能登半島地震、南海トラフ大地震注意の発令、台風10号、線状降水帯発生に伴う集中豪雨や土砂災害など、繰り返される自然災害は枚挙にいとまがない。地震、津波、火山噴火、台風、高潮、集中豪雨、洪水、土砂崩れなど、これほど多くの災害に見舞われる日本列島は、そのおかれた地理的な条件・環境と深いかかわりがある。
日本列島はアジア大陸の東端、大陸と海洋との接点に位置している。ここは海洋プレートと大陸プレートが重なる場所であり、日本列島は4つのプレートによって形成され、地震活動、火山活動が活発である。日本が地震大国といわれる所以であり、世界で発生するマグニチュード6以上の地震の約2割が、我が国周辺で発生している。四方を海に囲まれ複雑に入り組んだ海岸の地形は、津波や高潮の影響を受けやすい特性がある。日本列島の火山帯で起きる地下の活発なマグマ活動は、地震だけでなく火山噴火に伴う各種災害をもたらすことになる。
また、狭い国土と急峻な地形の日本列島が、アジアモンスーン地域にあることから、梅雨や台風シーズンにおける集中豪雨や河川の氾濫、浸水、土砂災害などの災害の大きな要因となっている。

このような災害大国日本で、多発する自然災害から従業員の命を守り、事業の継続を確保するためには、どうすればいいのか?その要となるのは、リスクマネジメントの手法を活用し、危機管理を適切に行うことである。リスクマネジメントとは、リスクを組織的に管理し、損失を回避もしくは軽減するためのプロセスであり、企業はリスクマネジメントに取り組むことで、危機発生時の損失(リスク)を最小化することにより、多発する自然災害に適切に対応し、企業活動を維持・継続することができる。
ここで述べるリスク管理(Risk Management)とは「予防」を目的とする手法であり、事前にリスクの発生を防止することを目的としているのに対し、危機管理(Crisis management)は「対処」を目的とする手法であり、災害や事故などの危機的な状況に対応することを目的としている。

BCP(Business Continuity Plan)は、企業が災害や事故などの危機的な状況に陥った際に、事業継続を可能にするための計画であり「危機管理」に含まるとされている。しかし、BCP策定するには、リスクを予測・分析・評価する「リスク管理の要素」が必要で、BCPを策定する上では、「危機管理」も「リスク管理」もともに重要で、どちらが欠けても不十分なものになるといえる。このため、まずは事業内容や目的をすべて書き出し、それぞれにどのようなリスクが起こり得るか特定する。より多くのリスクを列挙し分析することで、対応すべきことが明らかになることから、些細なリスクの芽も見逃さないように、幅広く業務を細部まで洗い出すことが重要となる。

このため具体的には、災害の発生頻度と発生したときの企業への影響度という二つの側面から、検討の主対象とする災害を列挙し、災害発生に伴うリスクを分析する。各自治体で発行しているハザードマップ(Hazard map)は、自然災害による被害を予測し、その被害範囲を地図化したもので、その地域で発生する災害の種類や被害想定を把握するうえで欠かすことのできない情報源である。
最近多発する災害の代表は「大雨」であるが、ハザードマップに基づき、事業所のある地形や地盤など地理的要因を加味し、河川の氾濫、増水や崖崩れ等想定すべき災害が自社に直接的な被害を与えるか、或いは、交通網の遮断によるサプライチェーン(Supply Chain)への影響など他の要因で、二次的な被害を受けることになるかを判断する。

このような災害に伴う被害(事業への影響・リスク)を最小限に抑えるためには、事前の対策(リスクマネジメント)が重要となる。例えば、施設の耐震・耐火・耐水性の向上や防災訓練の実施など、災害に強い企業体制を作る。また、サプライチェーンの確保など、自社の事業継続(早期再開)に影響が波及しないよう「備蓄や在庫管理」などを検討する。さらに、停電、断水、通信障害、交通障害などに備えて、あらかじめ(リスクを最小化する)予備電源の確保やデータのバックアップなどの各種対策を準備することなどが必要である。

このように、災害に備えリスクを最小化するため周到な準備をしたとしても、すべてのリスクを断ち切ることは出来ないことから、事業に影響があった場合を想定した「危機管理」が重要になる。基本的には、迅速な情報収集による的確な状況把握をもとに、BCPを適時に発動して災害への対策を講じ、また発生した被害の復旧作業などを的確に行うことになる。言い換えれば、「危機管理は、混乱した状況の下で何をすべきか決心し、迷わず行動に移す」ことに他ならない。この際に特に注意すべきことは「正常性バイアス(Normalcy bias)」である。
正常性バイアスとは、当面するリスクや危険を過小評価し、楽観的な見方を維持する思考傾向のことで、日常的な場であれば、楽観的に捉えることで心理的なストレスを軽減し心の負担を軽くするメリットがあるが、災害時などで「正常性バイアス」が機能すると、場合によっては命の危険もあるため注意を要する。
東日本大震災における津波災害では、「防潮堤があるからまだ大丈夫だろう」として、避難の開始が遅れた事例が少なからずあったとされている。

企業における「危機管理」の取り組みは、どうあるべきか?一言でいうとすれば「意思決定のプロセスを確立し、明確に(視える化)する」ことである。このため、①危機管理のマニュアル(BCP)を作成する。②マニュアルを実行するための危機管理体制(災害対策本部)を作る。③訓練(予行)し検証する。この一連の施策を実行する中で、危機管理体制を明確にし、状況報告や指示・連絡などの流れ確認しておく必要がある。また、緊急時の連絡手段、安否確認システム、報告用フォーマット、ホワイトボードなど、危機対応に必要なツールを準備し、訓練を実施して実際に機能するかを検証することが重要である。

企業の行う自然災害対策の基本は、企業にとって最大の財産であり、事業の発展や存続を支えるには欠かせない従業員を守ることにある。さらに、地震や台風、大雨、河川の氾濫、火山の噴火など、各種災害に伴う企業へのダメージを抑えるため、「どのようなダメージが出て、どれくらいの規模になるのか」を予想したうえで、企業を守るための具体的な対策を準備することである。
リスク管理やBCP対策を徹底することにより、緊急事態よるダメージを回避し、或いは早期復旧を図ることができるようにすることで、自然災害から自社も他社も守れるようにしていくことが、この災害大国日本で「企業活動を継続し、更には企業価値を高めていく」ための前提でもあろう。

2024年11月10日
一般社団法人 防災訓練士協会
代表理事 安村勇徳